AI規制と製造業の実務

#規制#EU AI法#個人情報

書類に目を通しながら記入する人
写真:Pexels

社内の業務システムに AI を使う日本の製造業にとって、2026年10月時点で直接の義務になる規制は多くありません。日本の AI 推進法には罰則が無く、中国の生成 AI の規則は中国国内の一般向けサービスが対象で、EU の AI 法は2026年7月の改正で、品質管理などにだけ使う AI は製品の安全部品に当たらないと明記しました。実務で効いてくるのは、規制よりも、個人情報と機密情報の扱い、そして EU に輸出する製品に AI を組み込む場合の準備です。

以下は2026年10月4日時点で確認した条文と公式の説明にもとづきます。法律の判断が要る場面では、専門家に確認してください。

EU:AI 法と2026年7月の改正

EU の AI 法(規則 (EU) 2024/1689)は2024年8月1日に発効し、2026年8月2日から全体が適用されています。禁止される AI の使い方は2025年2月2日から、汎用 AI モデルの規則は2025年8月2日から適用済みです。

2026年7月27日には、AI 法を改正する「デジタル・オムニバス(AI)」(規則 (EU) 2026/1744)が発効しました。製造業に関係する変更は三つあります。

  1. 高リスクの規則の適用が延びました。欧州委員会の説明によれば、付属書 III の分野(雇用や教育などの用途)の高リスク AI は2027年12月2日まで、製品の安全に関わる規制の対象製品に組み込まれる高リスク AI は2028年8月2日までです。
  2. 機械が付属書 I の別の区分に移りました。機械の規則((EU) 2023/1230)は、AI 法の規則の多くを直接受ける区分から外れ、AI の健康と安全の要件は機械の規則の側で委任法令として定められることになりました(2028年8月2日までに適用)。機械の規則そのものは2027年1月14日から適用されます。
  3. 安全部品の範囲がはっきりしました。改正後の条文は、利用者の支援、性能の最適化、サービスの効率化、自動化や利便性、品質管理といった安全に関わらない面にだけ使われる AI は安全部品に当たらない、と定めています。ただし、故障や誤作動が健康や安全を脅かす AI は安全部品に当たります。

EU に拠点が無くても、AI 法の対象になることがあります。第2条は、EU 域外の提供者や利用者でも、AI システムの出力が EU 域内で使われる場合や、自社の名前で AI を組み込んだ製品を EU で販売する製品メーカーを対象に含めています。

AI リテラシーの義務(第4条)も書き換えられました。改正後は、提供者と利用者は従業員などの AI リテラシーの向上を支える措置をとる、という形になり、特定の水準を保証することまでは求めないと明記されています。

日本の工場が社内の生産管理や品質記録に AI を使うだけなら、AI 法の義務が直接かかる場面は限られます。気にすべきなのは、EU に輸出する機械や装置に AI を組み込み、その AI が安全に関わる場合です。

中国:一般向けのサービスが対象

中国の「生成式人工智能服务管理暂行办法」(生成 AI サービス管理暫定弁法、2023年8月15日施行)は、中国国内の一般の利用者に生成 AI のサービスを提供する場合に適用されます。企業や研究機関が生成 AI を研究開発や社内で使い、国内の一般向けにサービスを提供しない場合は適用しない、と第2条に明記されています。

2025年9月1日からは「人工智能生成合成内容标识办法」(AI 生成合成コンテンツの表示弁法)が施行され、対象となるサービスの提供者は、AI が生成した内容に、利用者に見える表示や、ファイルに埋め込む表示を付けることになりました。2026年1月1日には改正サイバーセキュリティ法が施行され、AI の安全と発展についての条文が加わっています。包括的な AI 法は、国務院の2026年の立法計画で推進が掲げられた段階です。

中国に拠点を持ち、現地で社内の業務に AI を使う場合、生成 AI の規則は原則として直接はかかりません。現地の一般向けに AI を使ったサービスを出す場合は、別に確認が必要です。

日本:罰則の無い推進法と、指針

資料を囲んで話し合う人たち

日本の「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI 推進法)は2025年6月4日に公布され、9月1日に全面施行されました。AI を事業活動で活用する事業者(活用事業者)には、AI の積極的な活用に努めることと、国や地方公共団体の施策に協力することを求めています(第7条)。罰則の規定はありません。国は、権利や利益の侵害が起きた事案を分析し、事業者に指導や助言などを行います(第16条)。

具体的な行動の目安になるのは、総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日)です。拘束力の無い指針ですが、AI を事業で使う事業者(AI 利用者)に向けて、たとえば次のことを求めています。

  • 提供者が設計で想定した範囲で AI を使い、出力の精度とリスクの程度を理解したうえで使う。
  • 個人情報を不適切に入力しないよう注意する。
  • 機密情報などを不適切に入力しないよう注意する。
  • 提供者から受け取った AI システムの文書を適切に保管し、活用する。

第1.2版では、AI エージェントや、センサーなどで物理的な環境の情報を取り込むフィジカル AI についての記述も加わりました。工場の設備のデータを AI に扱わせる場合に読んでおく価値があります。

個人情報については、個人情報保護委員会が2023年6月に注意を出しています。個人情報を含むプロンプトを生成 AI サービスに入れる場合は、利用目的の範囲内かを十分に確認すること。本人の同意なく個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合は法律違反になりうるため、サービスの提供者が個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確認すること、とされています。

製造業の実務で決めておくこと

「CYBER SECURITY」の文字を並べた木のブロック

三つの地域の規制を並べると、社内の業務システムに AI を使う製造業が先に決めておくべきことは、規制の種類より次の四つに集約されます。

  1. AI に入れてよいデータと、入れてはいけないデータを決める。作業者の氏名や顧客の情報のような個人情報、図面や取引条件のような機密情報の扱いを、社内の決まりにする。
  2. 使う AI サービスが、入力したデータを学習に使わないか、どの国で処理するかを確かめて記録する(中国のオープンモデルは日本の製造業で使えるか)。
  3. AI が作った記録や判断を、誰が確かめて受け入れたかを残す。品質記録に AI を使うなら、これは ISO の審査でも問われる。
  4. EU に輸出する製品に AI を組み込むなら、その AI が安全に関わるかを設計の段階で判断し、2028年8月までの適用に向けて準備を始める。

規制の条文は、この1年でも大きく変わりました。決まりを作ったら、少なくとも年に一度は条文と指針の最新版を確かめ直してください。

出典

#規制#EU AI法#個人情報

執筆weaveAI 編集部(株式会社サオス)

株式会社サオスで weaveAI を開発しているチームです。製造業の業務システムと AI について、一次情報と実際の検証をもとに解説しています。

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