中国のオープンモデルは日本の製造業で使えるか

#オープンモデル#ライセンス#Amazon Bedrock#中国

「ARTIFICIAL INTELLIGENCE」と印字されたタイプライターの紙
写真:Pexels

使えます。ただし条件が二つあります。一つは、モデルの開発元が運営するアプリや API ではなく、公開された重みを自社のサーバーか国内リージョンのクラウドで動かすこと。もう一つは、モデルごとにライセンスを読むことです。同じ開発元でも版によって Apache 2.0 だったり独自ライセンスだったりするので、「Qwen なら大丈夫」のような覚え方は通用しません。日本語の実力は公式の資料からは判断できないので、自社の文書で試すしかありません。

以下の事実は、断りのない限り2026年10月時点のものです。

「中国のモデル」と「中国のサービス」は別物

個人情報保護委員会は2025年2月、DeepSeek 社のサービスについて、利用に伴って同社が取得した個人情報を含むデータは中華人民共和国にあるサーバーに保存され、同国の法令が適用される、と注意を呼びかけました。デジタル社会推進会議幹事会事務局も同じ月に、政府機関向けに DeepSeek 等の生成 AI の業務利用について注意喚起を出しています。

この注意は、開発元が運営するサービスにデータを送る場合の話です。公開されている重みを自社のサーバーで動かせば、入力した文書は社外に出ません。Amazon Bedrock のような国内リージョンを持つクラウドで動かす場合も、AWS の説明では、モデルの提供元は利用者のアカウントにも、プロンプトや応答にもアクセスできません。

経済産業省と総務省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月)は、取引や処理が複数の国にまたがる場合に、データの越境移転やデータローカライゼーションを考えた AI ガバナンスに留意するよう求めています。中国のモデルを使うかどうかより、データがどの国のどのサーバーを通るかを先に決める、というのが実務の順番です。

ライセンスは版ごとに違う

主な5系統の、Hugging Face で公開されている新しいモデルを並べます。日付は Hugging Face 上のリポジトリ作成日で、公式の発表日とは限りません。

系統公開モデル(作成日)大きさライセンス
Qwen(Alibaba)Qwen3.8-27B(2026-08)27BApache 2.0
Qwen(Alibaba)Qwen3.8-Flash-Next(2026-08)総125B・稼働6BQwen Community License 1.0
DeepSeekDeepSeek-V4.1-Flash(2026-09)本体552BMIT
Kimi(Moonshot AI)Kimi-K3(2026-06)総2.8T・稼働104B独自(Kimi K3 License)
GLM(Z.ai)GLM-5.3(2026-08)約753B独自(GLM-5.3 License)
GLM(Z.ai)GLM-5.3-Flash(2026-08)総320B・稼働18BMIT
MiniMaxMiniMax-M3(2026-06)総約428B・稼働約23B独自(MiniMax Community License)

独自ライセンスの中身は、条件がかなり違います。

  • Qwen Community License 1.0 は、ライセンシーやその関連会社が「Model as a Service」や「AI Work Assistant」の事業をしている場合、商用利用の前に Qwen から別途ライセンスを受けるよう求めています。売上の基準はありません。社内での利用は、ソフトウェアや出力、モデルの能力を第三者に提供しない限り対象外です。
  • Kimi K3 License は、Model as a Service 事業の売上が連続12か月で2,000万ドルを超える場合に、Moonshot AI との別契約を求めています。
  • GLM-5.3 License は、同じく Model as a Service 事業の売上が100億ドルを超える場合に、Z.ai のセキュリティ審査を求めています。
  • MiniMax Community License は、許諾の範囲を非商用と定め、商用で使う場合は「Built with MiniMax M3」の表示などを求めています。

自社の工場の中で文書の要約や分類に使うだけなら、多くの場合これらの条件には当たりません。注意が要るのは、そのモデルを組み込んだサービスを他社に提供する場合です。業務システムを作って顧客に提供する会社や、グループ会社に展開する会社は、版ごとにライセンスを読み直す必要があります。同じ Qwen でも、27B は Apache 2.0、Flash-Next は独自ライセンスです。

自社で動かせる大きさか

自社のサーバーで動かすなら、大きさが現実的な上限を決めます。Hugging Face のブログは、重みを読み込むだけで、16ビットでは1パラメータあたり2バイト、4ビットでは約0.5バイトのメモリが要ると示しています。この計算では、27B のモデルは16ビットで約54GB、4ビットで約14GBです。

この範囲に入るのは、Qwen の 27B や、総35B・稼働3B の Qwen3.6-35B-A3B(Apache 2.0)のような小さめのモデルです。DeepSeek、Kimi、GLM、MiniMax の最新版はどれも数百B から兆の単位で、社内の1〜2枚の GPU では動きません。これらを使うなら、クラウドで動かすことになります。

国内で処理させるなら

サーバーラックが並ぶデータセンターの通路

Amazon Bedrock の地域別の対応表では、東京リージョン(ap-northeast-1)の中で処理が完結する形で、Qwen3 32B などの Qwen3 系、DeepSeek V3.2 と V3.1、GLM 5 と GLM 4.7、MiniMax M2 系、Kimi K2.5 が使えます。

一方で、Qwen3.8、DeepSeek V4、GLM-5.3、MiniMax M3 のような最新版は Bedrock にありません。Kimi K3 は Bedrock で使えますが、東京からは処理先を世界中のリージョンに振り分ける「Global」方式だけで、処理が国内に留まる保証がありません。AWS 自身も、法令やコンプライアンスの要件があるときは地域内に留まる方式を選ぶよう勧めています。

国内で処理させる条件を優先すると、使えるのは一世代前のモデルになる。これが2026年10月時点の実情です。

日本語の実力

青い光の中のノートパソコン

今回確かめた最新版のモデルカードには、どれも日本語についての記述がありませんでした。Qwen3 の公式ブログ(2025年4月)は対応する119の言語・方言に日本語を含めており、Qwen3.5 のモデルカードは201の言語・方言への対応をうたっていますが、日本語の点数を個別には示していません。

日本語を強化した派生モデルはあります。東京科学大学と産業技術総合研究所の Qwen3 Swallow(2026年2月公開、8B・30B-A3B・32B、Apache 2.0)は、Qwen3 の日本語能力を強化したもので、公開元は8B と32B が同規模以下のオープンな LLM の中で日本語タスクの最高性能を達成した(2026年2月時点)としています。

ただ、一般的な日本語の評価と、工場の文書を扱えるかは別です。不具合報告の書き方、品番の付け方、社内の略語は会社ごとに違います。候補を2〜3に絞ったら、自社の文書で比べるのが一番確かです。不具合報告50件の分類や、作業日報から数値を拾う作業など、正解を人が用意できる課題で比べれば、判断に使える差が出ます。

製造業での使い分け

ここまでを踏まえた判断の目安です。

  • 図面、顧客との取引条件、未発表の製品情報のように外に出せない文書は、自社のサーバーで Apache 2.0 か MIT の小さめのモデルを動かす。
  • 量や長さが必要で、国内で処理させたい用途は、国内リージョンで処理が完結する形のクラウドを使う。この場合、最新版ではなく一世代前のモデルになることを受け入れる。
  • 開発元が運営するアプリや API には、社内の文書を入れない。
  • モデルを組み込んだサービスを他社に提供するなら、版ごとにライセンスを読み、Model as a Service の条項に当たらないか確かめる。

中国のモデルだから避ける、あるいは安いから使う、という判断はどちらも粗すぎます。データの通り道とライセンスを一件ずつ確かめれば、使える場面ははっきりします。

出典

#オープンモデル#ライセンス#Amazon Bedrock#中国

執筆weaveAI 編集部(株式会社サオス)

株式会社サオスで weaveAI を開発しているチームです。製造業の業務システムと AI について、一次情報と実際の検証をもとに解説しています。

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